みなさんの職場にも、年に1、2回「フィードバック面談」と呼ばれる場があるのではないでしょうか。多くの場合、評価を、上司が部下に伝える場となっているようです。
米ギャラップ社の調査によると、「この1週間に、意味のあるフィードバックを受けた」と強く感じる社員は、約70%が活力高く働いていました。それに対して、そこまで感じていない社員では約25%でした。意味のあるフィードバックは、働き方を大きく左右するのです。
本来、フィードバックとは
では、そもそもフィードバックとは何でしょうか。経営学者のラマプラサドは1983年の論文で、フィードバックを「実際の水準と目指す水準とのギャップについての情報であり、そのギャップを何らかの形で動かすために使われるもの」と定義しました。
ここで大切なのは、情報があるだけではフィードバックにならないという点です。ギャップを動かすために使われて、初めてフィードバックになります。人材開発・組織開発を研究する立教大学教授の中原淳氏も、著書『サーベイ・フィードバック入門』で、データは示すだけでは状況を動かす力を持たない、と述べています。
これを職場に置きかえると、フィードバックとは次のように言えるでしょう。
「目標と現在のギャップを測り、本人に伝え、修正し続けるための情報」
つまり、評価ではなく情報です。一度きりではなく、続けるものです。そして、本人の目標達成、成長に向けたものであることはもちろん、組織の目標達成に向けたものでもあります。
一方、みなさんの職場のフィードバックは、この形になっているでしょうか。4つの問いで点検してみます。
1. フィードバックが評価になっていませんか
評価や指摘を伝える場を「フィードバック面談」と呼んでいるため、フィードバックそのものが評価だと受け取られていないでしょうか。上司は言いにくいことを伝える覚悟で臨み、部下は身構える。多くの企業様から、そんな声を伺います。
しかし、ギャラップ社が挙げる意味のあるフィードバックの中身は、認めること、協力、いまの目標、強みです。評価は入っていません。実際、フィードバックがうまく機能している職場では、伝える側も受け取る側も、それを評価ではなく情報として扱っているように感じます。
2. フィードバックが年に1、2回の振り返りになっていませんか
期が終わってからフィードバックしても、その期の目標達成には間に合いません。プロセスの中でするからこそ、本人も組織も、目標達成に向けて修正することができます。
中原氏も、データは鮮度が大切だと指摘しています。時間がたつほど、受け取る側の関心も、フィードバックの効果も下がっていくからです。
3. フィードバックが上司から部下への一方通行になっていませんか
たとえば、部下の話から、上司が自分の伝え方を見直すこともあるはずです。修正するのは、部下だけではありません。フィードバックする側と受け取る側が、同じ情報を一緒に見ることが出発点です。
また、中原氏は、データを間に置くと、人を責めずに話し合えるようになると述べています。「あなたが悪い」ではなく、「データにこう出ている」と話せるからです。
4. フィードバックを一回にまとめて伝えていませんか
評価を伝える場で、一年分のフィードバックをまとめて伝えても、受け取り切れません。また、伝えきることも難しいのではないでしょうか。できるだけリアルタイムに、一つずつ伝える必要があります。
村上選手のチームが伝えていたもの
先日テレビで、野球の村上宗隆選手がメジャーリーグ1年目で躍進した裏側を特集した番組を観ました。村上選手は今季、35本のホームランを打っています。
まず驚いたのは、フィードバックが日々続いていることです。球場の至るところにカメラがあり、試合中の選手の動きを追い続けます。そのデータは、すぐに3Dで確かめられます。練習でも、対戦する投手の球をAIで再現するマシンを使い、試合の前から目を慣らしていました。しかも、チームは選手に伝えることを、普段は1日に1つに絞っていました。村上選手自身も、移動の車中でその日の打席の映像を見返していたといいます。
この仕組みが活きたのが、8月の不振です。打率が1割台に落ちると、コーチは映像から、左肘が下がりスイングの軌道がずれていることを突き止めます。そして、調子のよいときと悪いときの映像を、村上選手と比べながら話し合いました。
その後9月、首位争いの大事な試合で本塁打を放ち、チームをポストシーズン進出に導きます。シーズンの途中で伝え続けていたからこそ、チームの目標にも間に合ったのです。
一方で、チームのスカウト部長は、成績の予測は「科学よりも芸術に近い」と語っていました。心技体のうち、技や体はデータで測れても、心をデータで捉えるのはとても難しいものです。だからこそ、予測は芸術に近くなるのでしょう。実際、番組では、数字に表れない選手の心の強さも、データと同じように大切にされていることが紹介されていました。
職場の「スイングデータ」とは
こうして見ると、伝えるべき情報は一人ひとり違うことが分かります。では、職場で村上選手の「スイングデータ」にあたるものは何でしょうか。
私は、その多くはコミュニケーションにあると考えています。会議での発言、話の聴き方、メールの書き方、お客様や取引先とのやり取り。社内でも社外でも、仕事の成果の裏には、こうした日々のコミュニケーションがあります。
心理学者のアルフレッド・アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と述べました。仕事でつまずくときも、その多くは人との関わりのなかで起きているのではないでしょうか。
しかも、コミュニケーションは自分では見えにくいものです。自分の話し方や聴き方が相手にどう届いているかは、相手に伝えてもらって初めて分かります。だからこそ、上司と部下が互いにフィードバックし合うことが欠かせません。
AIで一般的な知識はすぐに手に入る時代です。しかも近い将来、自分のコミュニケーションのデータも、誰もが気軽に分析できるようになるのではないでしょうか。会議や面談で話した時間、問いかけの数、相手の反応。村上選手の球場のカメラのように、AIが日々のやり取りを映し出してくれるかもしれません。
ただし、データがあるだけでは、フィードバックにはなりません。それを評価ではなく情報として受け取り、修正に使えるかどうかは、上司と部下の関係しだいです。だからこそ、データに映る「スイングデータ」と、データには映らない心の両方を、上司と部下が一緒に見ていくことが大切なのかもしれません。
あなたの職場の「フィードバック」は、本当にフィードバックになっているでしょうか。
参考資料
- 「Span of Control」/Gallup(2026年)
- 「On the definition of feedback」/A. Ramaprasad(1983年)
- 『サーベイ・フィードバック入門』/中原淳(2020年)
- NHKスペシャル「村上宗隆 躍進の舞台裏 MLB知られざる戦略」/NHK(2026年)
- 『嫌われる勇気』/岸見一郎・古賀史健(2013年)
