今年1月のダボス会議で、ある発言が話題になりました。米パランティア社のアレックス・カープCEOが、AIは「人文系の仕事を破壊する」と言い切ったのです。
さらに日本では、「管理職が職を失う」という見出しでも報じられました。実際、米国の大手企業では、管理職を減らす動きが続いています。
大手企業で起きていること
たとえば、Amazonは2024年、管理職1人あたりの担当者の数を15%以上増やす方針を示しました。Googleでは、少人数のチームを率いる管理職が1年で35%減ったと、幹部が社内で語っています。
こう並べると、「管理職はもういらない」と聞こえます。ところが、中身を読むと、少し違う姿が見えてきます。
Amazonの説明では、目的は管理職を減らすことではなく、社員と経営陣の間の階層を減らすことです。また、Googleで対象になった管理職の多くは、担当者として社内に残ったと報じられています。
つまり、問われているのは人ではありません。決定を遅らせる階層と、そこに積み上がった仕事です。
AIが担うのは「真ん中」の仕事
では、AIに任せられるのは、どの仕事でしょうか。山口周氏は著書『コンテキスト・リーダーシップ』で、こう整理しています。
AIが担うのは、情報の収集・分析・出力という真ん中の工程です。人間の仕事は、その両端に移ります。一方の端は、何に取り組むかを決める「アジェンダの設定」。もう一方の端は、人を束ねて動かす「実行のリーダーシップ」です。
しかも山口氏は、この両端にこそ人文学的な知性が要ると見ています。カープ氏が厳しく見た人文系の学びが、ここで生きるというわけです。
階層を減らしても、残る仕事がある
一方で、気になる数字もあります。Korn Ferry社の2025年の調査では、約4割の社員が「管理階層が減った」と答えました。また、同じ調査では社員の37%が、管理職が減って方向を見失っていると答えています。
報告を中継する人は減らせます。しかし、方向を示し、人を育てる人まで減らすと、組織は迷い始めるのかもしれません。
中国の現場に置きかえると
では、在中国の日系企業ではどうでしょうか。本社向けの資料を整える。本社の意向を現地に伝える。現地の状況を本社に伝える。駐在員も現地の管理職も、この「中継」に多くの時間を使いがちです。
ところが、AI翻訳やデータの見える化が進めば、この仕事の比重は下がっていきます。本社と現場が、直接つながる場面も増えるでしょう。
そのとき、空いた時間を何に使うのか。この拠点は何に取り組むのか。現地の幹部とどう向き合うのか。真ん中をAIが担うほど、両端の仕事の重みが増していきます。
こうして見ると、問うべきは「管理職はいらないのか」ではないのかもしれません。「管理職は、何に時間を使っているか」です。
御社では、どうでしょうか
では、御社ではどうでしょうか。
- 管理職の時間のうち、報告と中継に使っている割合をつかんでいますか。
- この拠点が何に取り組むかを、現地の幹部と一緒に考える場はありますか。
- 部下と向き合う時間を、管理職の大切な仕事として扱っていますか。
そして、もし明日、報告と中継の仕事がすべてなくなるとしたら、あなたの仕事には何が残るでしょうか。
出典
- カープ氏の発言:Fortune(2026年1月)
- 日本での報道:ビジネス+IT(2026年1月)
- Amazonの方針:Fortune(2024年11月)
- Googleの管理職:NBC News(2025年8月)
- 山口周『コンテキスト・リーダーシップ ──「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』光文社新書、第四章
- Korn Ferry社の調査(2025年)
